紙を漉く 4 (流し漉きとネリ)
世界が認める 日本の素晴らしい紙漉きの技術☆
「流し漉き」は 日本独特のもので 滑らかで丈夫な紙を漉きあげます。
樹皮の繊維とともに混ぜる 「ネリ」 が大きな特徴です。
「ネリ」 とは・・・
長い繊維が絡み合うことで作られる和紙。
これに強い粘りを与えるのが トロロ(ネリ)です。
黄蜀葵(トロロアオイ)や 糊空木(ノリウツギ)といった植物の根から採取する粘液が使われています。
トロロアオイの方が粘度が高く 雁皮(ガンピ)紙には 粘度の低いノリウツギが使われました。
ネバネバ トロ〜リ
トロロアオイは 1年草。
根を砕いて 粘液を採ります。
「ネリ」の役割は くっ付けるという意味の糊とは ちょっと異なります。
もし 粘りのあるネリをいれずに 水の中に木の繊維を混ぜたらどうなるのでしょう?
恐らく 繊維は下に沈もうとし 水と繊維は分離してしまいます。
ところが 「ネリ」を水の中に入れて 繊維と一緒に攪拌すると
糸のように長い「ネリ」が 縦横に広がっていきます。
このため 繊維は「ネリ」に包まれ 均一に分散。
そして 長い時間 沈まずに浮遊しているんです。
滑らかで均一な紙! 強く丈夫な紙!
そんな良質な紙を作るために この「ネリ」が大活躍していることは
納得していただけたでしょうか?
ガッテン☆ ガッテン☆
そういえば 紙漉きのお話を始めた日から ずっと引っ張っていた話。
「どうして紙漉きは わざわざ寒~い冬に行うんでしょう?」
それが この 「ネリ」 と関係がありました。
実は「ネリ」の分子は 温度が高くなると 切れて短くなってしまうんです。
すると 粘度が次第に低下し 最後には全く粘り気がなくなり
水と同じようになってしまいます。
同じ条件を長い時間保って 均一の紙を漉いていくためには
「ネリ」が その威力を持続させることのできる 気温の低い冬。
「紙は寒漉き」 と昔から言われているそうですが 冬の寒い時期には
良い紙ができる!という意味だったんですね ♪
紙漉きを冬に行うのは 他にも理由があるのかもしれません。
木を切り出すのは 楮や三椏・雁皮が落葉する冬。
農家の人たちにとっては 冬は農閑期。
寒い冬は 水中の菌も少なく 水が綺麗とか・・・
そうそう 腐敗の問題もあったようですよ。
手漉きは1日に300~500枚と漉きあげ 濡れ紙を重ねていきます。
圧力を徐々に加えて水分を抜いていくには 相当時間もかかったはず。
気温の高い夏は 細菌も増えやすい。
腐敗すると 乾燥のときに剥がれにくくなったり 染みになったりと
いろんな弊害がでてくるのだとか。
やっぱり 「紙は寒漉き」 なんですね!!
先日はTVで 福島のあんぽ柿(干し柿)を紹介していました。
冬の冷たい風にあてて作られるんだそうです。
自然の風だけで 時間をかけて作られた干し柿は
と~っても美味しそうでした ♪♪♪
日本酒を作るのも 冬ですよねえ!!
冬の寒さって スゴイかも・・・
紙を漉く 5 (土佐典具帖紙)
「流し漉き」で漉きあげた和紙は 薄くても とっても丈夫!!
高知県を産地とする和紙 「土佐典具帖紙」は
「蜻蛉(かげろう)の羽」と称され 手漉きの和紙では 世界一薄くて丈夫な紙と言われています。
この技術は 国の重要無形文化財にも指定されているんです。
数年前に訪れた 高知県伊野町。
ここには 典具帖紙の紙漉き職人として 人間国宝に認定された濱田幸雄さんがいらっしゃいます。
紙を漉いているところを見せていただけるというので 訪ねました。
残念ながら 濱田さんは体調を崩され お会いできなかったのですが
その技を受け継ごうと努力されているお孫さんが 「まだまだ 未熟ですが・・・」と言いながら
紙漉きを見せてくださいました。
水と樹皮の繊維 そして「ネリ」であるトロロアオイを しっかりと攪拌します。
何度漉いても同じようにあがる 激しい水の動きが とっても綺麗で感動しました☆☆☆
紙を漉く 6 (土佐典具帖紙)
「蜻蛉(かげろう)の羽」 と称される「土佐の典具帖紙」です。
この薄さ!! 職人技ですねえ・・・
日本独特の 「流し漉き」の技術。
これからも ず~っと伝えられていく事を願います。
とても地道な作業。
毎日こつこつと積み重ねていく作業。
職人技って ホントすごい ♪
尊敬です☆
そういえば 昔 朝の連ドラ「ちりとてちん」で 塗り箸職人のおじいさんが
「今まで積み重ねていったものが綺麗な模様になって出てくるんじゃ」
って言ってました。
思わず 「う~ん」 と唸ってしまった深いお言葉でした。
和紙を漉く 4 (流し漉き ネリ)でご紹介した 「ネリ」のトロロアオイは
この濱田さんの家で 撮らせていただいた写真です。
自然の植物だけで作られた手漉きの和紙。
手間もかかるし 大量生産はできないけど
薬品を使わず 自然のものだけで作られた紙は 中性で劣化しにくい。
1000年以上前の紙が残っているのですから 驚きです。
自然の恵みですね ♪♪♪
紙を漉く 7 (道具)
日本の誇る紙漉きの技術を 数回にわたって ご紹介してきました。
紙漉きに限らず いろんな職人さん達の技術が これからもず~っと
受け継がれていくといいなあと思います。
そして もうひとつ。
私が 伊野町の濱田さん宅を訪ねた時に 感じたことがあります。
それは ものを創る方たちの技術だけでなく その道具を作る方たちの
技術も受け継がれていかなくてはならないんだ という事。
紙漉きも 紙漉き職人だけでは 紙が漉けないんですよね。
その道具を作る職人さんが 絶対必要なんです!!
これは 紙を漉くときに使われる 簀桁(すけた)。
竹ひごを使って編まれた簀(す) を 桁(けた)にはめて
使います。簀を編むには 強靭な生糸が使われ 一定間隔で糸の締まり
具合を均一にしなければならないそうです。
桁は 原料を汲み込んだ時に水平になるように わずかに山形
に湾曲させてつくるんだそうです。
濱田さん宅では おばあちゃん(濱田さんの奥様)が いろんな
話を聞かせてくださいました。
簀を編むには とても時間がかかること。
とても細かい作業で お孫さんが苦労されていること・・・
良い紙を漉くための命でもあるのだから 絶えず修理をしなくては
ならないのでしょう。
職人さんにとっては 道具が基本!は当たり前のことなのでしょうが
私は つい紙を漉くほうにばかり目を奪われ 道具のことを見落として
しまうところでした。
そして 紙漉きの前の繊維を採る
作業に使われるのがこの籠。
きれいな紙を作るために 籠に
繊維を入れ 川の水に漬けて
塵を取り除くのだそうです。
確かな記憶ではないのですが
この籠を作ってくれる職人さんが
今は日本に3人しかいらっしゃらない
と聞いた気がします。
こうして 修理を重ねながら大事に
使うのですが
とても強く竹を編んで作るものなので
相当の力仕事なのだと
おっしゃっていました。
まだ 日本に機械漉きが入ってくる前は 和紙作りをする職人さんが
いっぱいいたのですが どんどん 数が減ってしまったそうです。
「若いときは 和紙作りだけでは なかなか生計が立てられず
前を流れる 仁淀川の鮎を取って 子供達を育てたんだ」
と話してくださいました。
それから少しずつ 典具帖紙の良さが認められ 望む方たちも増えて
今があるのだそうです。
私のような第3者は 簡単に 伝統を受け継いでいって欲しい!
と言ってしまうけど
生計を立てられる状態でなければ 受け継いでいく人が減ってしまう
のは当然のことなんですよね。
紙漉きに限らず 伝統や技術って 私達が その価値に気づいて
大切に感じることが 一番必要なことなんだと実感しました♪
漉き舟(すきぶね)の横に
付いていたもの。
漉いた紙の数を数えるための
ものかなあ。
いろんなところで
竹が使われていました。
この使い方に なんか
感心してしまいました。
「竹なんだあ~」って。
揺すったときに しなって
くれるんですね。
関係ないかもしれないけど香港で
高層ビルの足場がみんな竹で組まれていて
びっくり! したことがありました。
竹って スゴイ☆